馬鹿と鋏は使い様

(突発的に思いついた超能力者の存在する世界のネタ)















 

彼の能力は一番下のFクラスで、数ある能力の中でも最も良く言えば人畜無害、悪く言えば何の役にも立たない(Fクラスに認定されるくらいだから、せいぜい明日の天気がわかるとか他人の体重がわかるとか猫と挨拶できるとかそれ以下の)能力だ。

おまけにレベルだけは超級のSSIで、本来なら15までしか存在しないレベルをはるかに凌駕しているときている。

この、レベルだけはSSIというのが更に救いを失くしている。これでレベルが2とか3だったら救いはあった。レベルを上げれば強力な能力になったかもしれないからだ。

しかし、レベルがこれだけ高くても、クラスF。

つまりテレビの時計が0.001秒速いかそうでないかというぐらいどうでもいい能力。通りすがりの人が買い物帰りの主婦か美容院帰りの主婦かというぐらい気にもならない能力。

いっそここまで見事に役に立たないと認定された能力も珍しい。

だから、どうしてここまでどうでもいい能力を持つ彼をトウジが引き入れたのか、わからなかった。赤場は、いいじゃん面白いし、と笑っていたが。

グループの中でもなんでそんな役立たずをトップであるトウジが引き入れたのか、というと、

「出会いが激烈でした」とかいうふざけた理由かららしい。

どう激烈だったのかは知らないが、そんな役立たずはさっさと追い出せ、足手纏いだという声も無視できない。

直談判に行く事にした。

 

「こんにちは。はじめまして、斉条・・・匡さん?」

「はじめまして。単刀直入で悪いが、君の能力を教えてくれないか。一応全員の能力は把握しておきたい。話せるところまでで構わない」

 

すると彼は人の良さそうな笑みを少し引っ込め、驚いた顔をした。

流石に単刀直入すぎるだろうか。私はどうも鬼のように真面目だと思われているらしく、赤場と剣崎とトウジ、それに加州(かす)(かな)以外には冗談すら言ってもらえない。

怖がせたか・・・・・と彼を見る。彼はどうやらまだ高校生らしい。グループにまで制服を着てくるとはいい度胸かもしれない。

 

彼の話した能力は、相手が自分に対して感じる好感度を操作できるというもの。なるほど、心を操る能力者や暗示を使う能力者もいるが、好感度。せいぜい初対面の印象を良くするくらいの能力。

なるほど、Fクラスな訳だ。

就職面接の時に多少役に立つくらいか。あとは近所付き合いとか。

戦闘などというものには見事なまでに役に立たん。

しかし幸いにも、能力を使った後の反作用は無い能力のようだ。

 

能力を教えてもらったかわりに、私の能力も教える事にした。

私の能力は時間干渉。

時間を放出したり、取り込んだり出来る。しかし反作用として、私の生きる時間内でしかその操作はできない。つまり、私が十年分の時間をできたてのワインやらコンピュータやら赤ん坊やらに放出すると、十年モノのワイン、十年もののコンピュータ、十歳の子供になる。そして十年分の時間を放出した私は十年分体が若返る。

逆に十年分の時間をそれらから吸い取ると、十年もののワインはできたてか、もしくはブドウに戻り、コンピュータは新品に戻り、十歳の子供は赤ん坊に戻る。そして十年分の時間を吸い取った私は十年分歳をとる。

この能力はいわゆる「不老不死」を目指す人々の格好の標的になり、そのあまりの陰湿さに私は逃げ出したのだ。私を求める手が政府にもゲリラにもあまりに多かった故に。

そして、なぜか人々は私が何十年も生きていると思っているようだが、私はまだ21歳だ。この能力のせいで自分が40、50になった時の顔も知っているが、実質私はまだ21年しか生きていない。

戦闘がある度に私の年齢は変化する。能力を武器として使っているからだが、最近の戦闘は激しくて戦闘が終わった時には小・中学生くらいになっていることが多い。

 

「外見小学生なのに冷静沈着で美人だけど眼がすごく鋭くて、身ごなしも悠々としてて隙が無くて、おまけに口調が平坦で抑揚が無くて、別次元の、自分たちなんかとは格の違う雰囲気がひしひしと伝わってくるから気安く話しかけられないんだそうで」

「・・・読心能力もあったのか」

「ないけど」

「・・・・・・・・」

 

性格的にはとてつもない猛者だと言っていいのかもしれない。

 

「まあ匡さんは悪い人じゃなさそうだから教えとこう。」

「何をだ」

「まあとりあえず、匡さんの目には僕はどういう風に映ってるのか教えてくれ」

 

私は少し考えこんだ。

 

「学ランを着て人の良さそうな、万人に好かれそうな笑みを浮かべていて見捨てたら一生後悔するようなこちらを信頼するような目でこっちを見ないでくれといいたくなりそうな」

「そうそう、それ。今能力消すから」

 

私は驚いた。確かに彼は親切そうな笑みを浮かべていたが、万人ではなく、捻くれた若者あたりには拒否されそうな感じで、こちらを信用はしているが頼り切るつもりは無いとでもいうようなしたたかな色もある。

なるほど、こちらが感じる感情の様々なベクトルを全て良い方向にもって行く能力なのだな。

 

再び彼に人の良さそうな感が戻ったが、なるほど、軽いスパイあたりには使えそうな能力だ。

惜しむらくは、それが好感度の時点で止まっているという事だが。

 

「この能力はタイミングが揃えば結構面白いんだ。例えば能力とか関係無しに、僕に元から好感を持っている人がいたとして、その人に少し魅力的なところを見せながら能力全開にすると一目惚れの出来上がりとか」

「・・・・・・・」

 

思わずあっけにとられてしまった。

ひ、一目惚れ?

 

「感情のベクトルが理性に傾いてる人だと爆発しないしいい感じに続くんだけど、感情のベクトルが自分の心優先な人とか情緒不安定な人だとものすごくべったり依存されたりとかすぐ恋愛に発展したりして苦労するんだ。年上の男の人に結婚申し込まれた時は流石にどうしようかと」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

口が閉じなくなってしまった。何だか、目の前の人物が得体の知れない生物に思えてきた。火星人か。火星人なのか。火星語を喋っているのか。

 

混乱していると彼が、ええいもう奴でいい。奴が顔を近づけてきて、声を少し潜めて、

 

「ちなみにキスしながら能力全開にすればどんな人でもオチるよ。もお、ベタ惚れ。」

 

き、ききききききききす!!

なんだこいつは、世界最高峰のタラシか!べ、ベタ・・・(絶句) 専門用語を使うな!

試した事があるのだな、どんな人でもということは女も男もか、ええい考えたくない。

 

「ちなみに●×(ピー)しながら能力全開にするともう僕無しでは生きられなくなるらしい」

 

「    」

 

もはや何も言う気力が無かった。

た、試した事があるのだな!ななななんという、人類歴史上最凶最悪の悪魔だ!

しかも奴はまだ高校生のはず、一体何歳で何をしているのだ!

 

肩に手を置かれて、

 

「じゃあよろしく匡さん。グループ内で僕をめぐった痴情の縺れが出たら上手い処理をお願いするよ」

 

笑顔で言われてじっとりと汗が滲んだとも。

きっと私の顔は強張っていただろう。

 

その後トウジのところに「奴を何とかしろ」と怒鳴り込んだ。当然だ。

あの笑顔に負けてはいかん。奴がいては、絶対に私の日常が脅かされる。

 

 

結局私をここまで苦手にさせた猛者として奴は受け入れられてしまった。

奴はよく私に纏わりつきに来る。

自分より図体のでかいガキなど鬱陶しいだけだというのに。

虫よけに最適なんだよ匡さんは、とのたまう奴が実はすばらしく役に立つという事はもう今では認めざるを得ない。

 

しかし。

 

奴のあだ名が「天然殺し男」で、

 

私によく纏わりつくせいで「今度の獲物は斉条さんか」と囁かれていることには、

 

強く、強く異議を唱えたい。

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